残された日記

 同時進行で何件かの相続手続きを行っているが、皆さん預金調査に協力をしてくださり大変助かっている。新聞などで名義預金のことなどを取り上げているから、以前よりも相続人の方に理解を得られるようになったこともある。

 Tさんは、突然配偶者を亡くされた。
 預金管理はそれぞれが行っていたから、被相続人の預金の出入りについてはあまり把握していないようだ。大きな金の流れだけでも確認しておきたく、Tさんにいくつかの質問をした。Tさんは困惑していた。少し時間が欲しいとのことで、1か月ぐらいのうちにわかれば・・・とお願いしておいた。
 1週間後ぐらいのことである。
 Tさんから連絡が入り、不明点が分かったから説明に来所したいという。
 約束の日、Tさんはそっとやってきた。少し元気になっている。お願いしておいた質問事項の回答がほぼ確認できる状態であった。
 Tさんは言う。
 「夫は日記を付けていて、亡くなってからその日記帳を開くことができなかった。でも今回の相続の手続きにおいてもらった質問事項の確認をするには夫の日記帳が頼りだと思い、思い切って開いてみた。」というのだ。
 約半年間封印されていた日記帳が開かれ、Tさんは涙とともに夫の残した日記を読んだそうだ。
 家族を亡くした悲しみは、時間がたたないと解決しないだろう。でもTさんはその日記を読んで、少し気持ちの区切りがついたそうだ。

 「いつか開かねばならないと思っていた日記帳を、先生に背中を押してもらって開くことができた。」という。私は日記帳の存在を知らなかったが、被相続人の預金調査がきっかけとなったことは事実だ。
 「この日記帳を開いてごらん、と夫に言われた気がする。」
 Tさんはそっと微笑んだ。